青い壺

有吉佐和子 · 2015

『青い壺』は、一つの壺が人の手を渡っていき、それぞれの生活の中で短い物語が連なっていく形式の小説である。構造としては『悪女について』を思い出すが、『悪女について』が富小路公子という一人の人物をめぐる証言の積み重ねであるのに対し、『青い壺』では壺は常に中心ではなく人々の暮らしの隅に置かれ、その周囲が描かれる。壺は語られる対象というより、そこに在るものとして機能している。 物語の冒頭では、壺は確かに牧田の作品だった。手放すときの寂しさや、古色をつけてほしいと依頼されたときの屈辱も描かれて、作者と作品のあいだには具体的な関係があった。十年を経て、壺が古美術評論家のもとへ渡ると、八百年前の唐の名品と断定される。その価値は作者とは切り離されたかたちで成立していて、作者と作品の関係性は完全に失われていた。 最後に牧田は、これからは作品に刻印を入れるのをやめようと考える。これからは必ず刻印しようと決意する結末もありえたはずだけど、彼はそう考えなかったのはなんでだろう。

往時の陶工が決して作品に自分の名など彫らなかったように、自分もこれからは作品に刻印するのはやめておこう、と。

読んだ日: 2026/02/11