熊とワルツを

トム・デマルコ / ティモシー・リスター · 2003

ピープルウェア同様、実務のあれこれと結びつけてそうそうと頷きながら読める読みやすい本だった。本書は一貫してソフトウェア開発プロジェクトにおける不確実性を前提にして書かれている。どうすれば成功するかを語るのではなく、プロジェクトの多くは何らかの形で失敗する、というかなり冷静な前提から始まる。納期が遅れるか、当初約束した成果を満たせないか。そのどちらかになるのが普通だ、という書き方をされており、そうかと気が楽になった。 ソフトウェア開発プロジェクトにおいて、リリース日を確実に約束することはできない。その事実を曖昧にしたまま進めること自体が、最大のリスクだという立場が、最初から最後までぶれていない。デマルコが言っているのは、約束するなという話ではない。不確実であることを、不確実なまま扱え、という話だ。単一の日付を確実そうに提示するのではなく、最も可能性が高い日と、その前後に広がる可能性の範囲を示す。予測であることを明示した上で、意思決定をさせる。 この考え方は、スクラム開発が前提としている思想に近い(同じ?)と感じた。最初から完璧な見積を出すのではなく、実績を積み重ねながら予測精度を上げる。スクラムのベロシティの考え方は、本書で語られる確率で語るという思想を、現場レベルで継続可能な形に落とし込んだものに見える。 後半で特に印象に残ったのは、コストやスケジュールと同じように価値も測るべきだ、という指摘だった。多くのプロジェクトでは、プロジェクトマネージャーに求められるのはコストとスケジュールの管理だけになりがち。その結果、予定通りに作ること自体が目的化し、できあがったものが本当に価値のあるものだったのか、という問いは置き去りにされる。デマルコは、価値を定義する責任は発注者側にあるとしつつ、その価値が曖昧なまま進むこと自体が大きなリスクだと捉えているように感じた。 見積もりを絶対視してエンジニアを追い込むことはできるが、不確実性をもみ消すのではなく、不確実なまま扱うという姿勢が、結果としていちばん誠実だと思った。

読んだ日: 2026/02/08