きつねのはなし

森見登美彦 · 2009

森見登美彦の『きつねのはなし』を読んだ。 森見登美彦の描く京都といえば、『四畳半神話大系』や『夜は短し歩けよ乙女』のように、いろいろな出来事が巻き起こる学生の街というイメージがある。けれどこの作品では、京都の暗く陰鬱で閉鎖的な側面が強く前面に出ていた。 夜道でふと獣が出てくるのではないかと警戒してしまうような、不気味さがある。天城さんの住む場所も、天城さん自身も、どこか暗くて気味が悪く、何を考えているのか分からない嫌な感じが漂っている。 森見登美彦の作品を読むといつも感じるのだが、情景が立ち上がりにくく、物語に没入しづらい。作中には京都の固有名詞や地名が多く出てくる。わたしは学生時代を京都で過ごしているので、聞き覚えのある地名も多い。それでもなぜか、頭の中で風景がうまくイメージできない。 ただ、森見登美彦の作品を読んでいると、いつも学生時代の空気を思い出す。大学生が楽しくおバカなことをしているような話であっても、そこには楽しさだけではない何かが混ざっている感じがするのだ。 学生時代は、楽しい思い出だけでできているわけではない。孤独とか、焦燥とか、理由のよく分からない不安や違和感を抱えていたりする。そういう、うまく言葉にしにくい学生時代の感覚を思い出させるところが、森見登美彦の作品にはある気がする。

読んだ日: 2026/03/02